齋藤 諒 氏
Senior Scientific Fellow, Broad Institute of MIT and Harvard
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
私はスイスのバーゼルでPh.D.を取得しました。その頃から、現在の私のメンターであるFeng Zhang 博士はCRISPR-Cas(クリスパー・キャス)を用いたゲノム編集技術開発を中心に次から次へと大きな業績をあげておりました。私自身も生物工学に興味があったため、Zhang 博士のラボで博士研究員として働くべく5年前にボストンに来ました。実は、修士課程の時にボストンに滞在したことがあります。その際にBJRFのような日本人コミュニティのイベントで出会った人々がみんな輝いていたことを鮮明に覚えており、これもボストンに来ることを後押ししました。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
2年程前にBJRFでCRISPR-Cas(クリスパー・キャス)を用いたゲノム編集について講演させていただきました。その際には、私自身の研究内容よりも、皆様の日常生活の中で雑学として役に立ちそうな「クリスパー・キャスとは何か?ゲノム編集とは何か?」に重点をおきました。ゲノム編集で有名な研究室にいるものの、実際のところ、私自身は典型的なCRISPR-Casシステムは研究しておりません。今回の講演では、どうやって新しいタンパク質を自然界から発掘するのか、どうやってそれらを人間が使うためのツールとして改造するのか、など、私自身の研究内容をご紹介します。
実は今年末に日本に帰国し、来年1月より理研でチームリーダーとして研究室を主宰します。昨年 BJRFの幹事長をしていたこともあり、BJRFでは多くの方々に出会い、個人的にも大変お世話になりました。博士研究員として最後の講演を BJRFで行えることを非常に光栄に思います。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
自分のやりたいことをやること。また自然科学で大きな発見をするには運が重要とよく言われますが、"不運 (bad luck)"に付け入る隙を与えないように、真実を明らかにするために実行可能なアイデアは狂気的に全て試すことです。宝くじを 100%確実に当てたければ、くじを全部買い占めてしまえば良いわけですから。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
研究室で実験をするのが好きです。
伊藤 辰将 氏
Post-doctoral Fellow, Brigham and Women’s Hospital
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
20年ほど前から漠然と世界をリードする研究者になりたいと思っており、研究者になりましたが、なかなか強い一歩が踏み出せず世界どころか生まれた土地から半径20km圏内で生活してまいりました。元々は炎症に関わるタンパク質の相互作用の研究をしておりましたが、ある夜、就寝前にコロナウイルス感染症と自己免疫疾患には類似性があるのではないかと思い、免疫学にも興味を持ちました。同時期に留学先を探していたところ、日本での所属教室の教授からボストンで免疫学研究のポスドク募集のお話をいただき、念願叶ってこちらでの研究生活をスタートすることができました。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
本講演では生体防御の第一線で活躍する好中球の多様性と免疫学研究の実験手法についてお話したいと思います。 近年、機能や表現型を解析することにより、免疫細胞の多様性が明らかになってきました。全てをすぐに理解することは容易ではありませんが、ある一つの種類の細胞の理解を窓口として、そこから視野を広げることで免疫システム全体がみえてくるのではないかと思います。また、それぞれの多様な細胞がどのように同定されてきたかの歴史をたどることは新たな発見につながるかもしれません。今回の講演でも会場のどこかで新たな着想が生まれることを期待しています。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
実験結果をしっかり吟味・解釈することです。多くの実験をしていると予想通りにならないときや残念ながら手順を間違えてしまうことがありますが、実験結果をよくよく見ると全く無駄ではなく、思いもよらない着想を得ることがよくあります。同時にうまくいったように見えても、実は論理に穴が見つかってしまうこともしばしあります。一つ一つの実験には時間もお金もかかっていますので、結果を最大限に生かせるように、隅々まで評価するようにしています。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
休日は外出しています。特に近所の池の周りを散歩するのが好きです。心地よい風を受けながら、鳥の声を聴き、日常に多く存在する問いとその答えを探しています。
滝口慎一郎氏
McLean Hospital, Developmental Biopsychiatry Research Program
Harvard Medical School, Department of Psychiatry
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
A: 研究留学のためです。ボストンには、私の研究テーマに関連する分野で著名な研究者や医療関係者が多く、非常に刺激を受けています。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
A: 神経発達症(発達障害)や小児期逆境体験(児童虐待)に関する脳画像研究をご紹介します。子どものメンタルヘルスについて理解を深めるきっかけになれば幸いです。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
A: チーム意識を持ち、仲間を大切にすること。そして、科学に真摯に向き合い、プロセスを大切にしながら自分で考える姿勢を心掛けています。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
A: ボストン市内のイベントに参加したり、マラソン大会に向けてランニングを楽しんでいます。ボストンコモンは特にお気に入りのチルスポットです。
秋山和徳氏
マサチューセッツ工科大学 ヘイスタック観測所
Kazunori Akiyama, PhD
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
A: 東京大学でイベントホライズンテレスコープ(EHT)の試験観測に関する研究でPhDを取得しましたが、大学院時代の夏は毎年MITの現所属に滞在し研究を行っていました。ブラックホール初撮影の見通しが立った際、EHTの主要機関である今の所属をポスドク先に選び、研究主催者として現在に至ります。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
A: 5年前のEHTによるブラックホール初撮影についての裏側とその後の進展についてお話しします。2019年の初公開後、わずか一ヶ月で世界中の40億人がブラックホールの画像を目にし、科学と一般の人々のブラックホールへの理解に大きな影響を与えました。今回はその続編として最新のブラックホール撮影についてご紹介します。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
A: インパクトがあると感じたら、不可能に思えても試みること。また、EHTのような国際研究グループでは、意見の相違があっても相手を信頼し、建設的な議論を心がけることを大切にしています。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
A: 夏は郊外でロードサイクリング、冬はスキーを楽しみます。また、学生時代からの趣味であるジャズを聴きに行くのも楽しみです。
橋本忠幸氏
Brigham and Women’s Hospital
Emergency Medicine
Tadayuki Hashimoto MD, MPH
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
A: 初めはHarvard Medical Schoolの医学教育の大学院に入学する予定でしたが、ビザの問題で入学できなくなりました。しかし、Brigham and Women's Hospitalで教育介入研究の手伝いをさせてもらうことになり、ポスドクフェローとして渡米することができました。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
A: 私の現在の主な研究である、「日本における若手指導医養成」と「(医学)教育の副作用」についてお話します。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
A:色んな価値観に触れながら、自分の価値観をアップデートし、それを発信することです。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
A:世界中からボストンに集まってくる人たちとコーヒーを飲みながら話をすることです。
恒任優 氏
Black Hole Initiative, Harvard University;
JSPS (Japan Society for the Promotion of Science) Overseas Research Fellow
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
A: 大学院時代に現所属のBlack Hole Initiativeでセミナー発表を行い、とてもよい雰囲気を感じたので昨年9月より海外学振研究員として参加しました。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
A: 2019年に発表されたEvent Horizon Telescope (EHT)によるブラックホールの観測画像は、アインシュタインの一般相対性理論を実証する大きな成果となりました。それと同時に、ブラックホールの直接観測の実現は、銀河の中心から噴出される大規模かつ超高速のプラズマジェットの研究に新たな地平を切り拓きました。 「宇宙ジェット」の駆動機構は、その発見から100年以上にわたり未解明のままであり、現代天文学における最大の謎の一つです。本講演では、これまでの宇宙ジェット研究の歩みを振り返りつつ、EHTが切り拓いた成果や、来るべき次世代EHT (ngEHT)およびBlack Hole Explorer (BHEX)ミッションがブラックホールによるジェットの生成・加速メカニズム解明に向けてどのような道筋を示すのかを、最新の理論モデルによる成果を交えながら紹介します。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
A: 毎日コツコツがあまりできない性質なので、モチベーションが向いた時、必要に迫られた時に覚悟して全力を注ぐようにしています。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
A: アメリカの牛肉は相対的に安いので、毎週ステーキを焼いています。和牛とは火の通り方が全く違うので日々試行錯誤しています。
山下由起子 氏
Member, Susan Lindquist Chair for Women In Science, Whitehead Institute;
Professor of Biology, Massachusetts Institute of Technology;
Investigator, Howard Hughes Medical Institute
Q: ボストンへ来られたきっかけは何だったのでしょうか?
A: 元々ミシガン大学で教授をしていましたが、現所属から声をかけてもらったのがきっかけで、同僚となる研究者たちのvibe(研究に対する姿勢)が良かったので動くことに決めました。
Q: 今回のBJRF講演ではどんな研究のお話を伺えますか?
A: 「種分化の謎とジャンクDNA」のテーマでお話しします。ゲノムは生命の設計図であるとよく言われますが、実際には半分以上(人間では9割以上)のゲノムDNAが何の遺伝子産物(タンパク質など)をもコードしておらず、ジャンクと呼ばれています。中でも、反復配列(同じDNA配列が、タンパク質などをコードすることもなく100万もの文字列がつながっている)はジャンク中のジャンクであり、その存在意義は不明とされてきました。これらの反復配列は生物種間でもあまり保存されておらず、重要性の低さ(つまりジャンク)の証拠であると捉えられてきました。我々の近年の結果は、これらのジャンクと考えられてきたDNAが実は「とじしろ」のような役割を担っており、染色体DNAの保持に必須であることを示しました。そこから敷衍して、ジャンクDNAの変容が種分化につながっているのではないかと提唱しています。
Q: 先生がご自身の研究生活で大切にされていることはありますか?
A: 既存の考えにとらわれないこと、ストイックに目の前にある疑問に集中すること、人間としてのインテグリティーを保つこと、でしょうか。
Q: ボストンでの好きな休暇の過ごし方を教えてください。
A: 平日は犬の散歩が主なrelaxationです。(ちょっと西に行くとstate parkなどかなり自然があります)