ボストン日本人研究者交流会 (BJRF)

ボストン在住日本語話者による、知的交流コミュニティーです。

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2024

第222回 講演会

日時: 2025年3月15日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E25-111
「情報と物質のはざまから染色体をみる」

野崎 慎 氏

Harvard University, Department of Molecular and Cellular Biology


人類の染色体に対する理解は、科学技術の進歩とともに発展してきた。特に、イメージング技術やシーケンシング技術の発展は、染色体研究に大きな影響を与えている。本発表では、それらの技術革新と染色体研究の変遷について議論する。ヒトは46本(2n)の染色体を持つが、他の真核生物における染色体の多様性は顕著である。例えば、トビキバハリアリのオスはわずか1本(n)の染色体しか持たないのに対し、ウチダザリガニは376本(2n)、シダ植物の一種は驚異的な1260本(2n)もの染色体を持つ。また、ウガンダツメガエルは12倍体(12n)の染色体を持ち、エンレイソウでは染色体1本あたりのDNA量が10Gbpを超える。さらに、カモノハシはX₁, X₂, X₃, X₄, X₅, Y₁, Y₂, Y₃, Y₄, Y₅という独特な性染色体を持つ。 本発表では、こうした染色体の多様性と生物多様性についても考察する。

第一講演
「機能しないはずのRNAが鍵を握る?-「ジャンクRNA」の神経変性疾患における役割と治療応用-」

小林 天美 氏

Research Fellow, Department of Neurology, Brigham and Women’s Hospital


コロナワクチンの開発を契機に、RNAという言葉がニュースでも頻繁に取り上げられ、DNAと同様に多くの人に知られる医学用語の一つとなりました。RNAには様々な種類がありますが、大きく分けるとタンパク質の合成に関与するRNAと関与しないRNAの2種類に分類されます。かつて、タンパク質の合成に関与しないノンコーディングRNA は「ジャンクRNA」と呼ばれ、1990年代まで 生物学的な機能を持たない無意味なゴミと考えられていました。しかし、2024年のノーベル生理学・医学賞を受賞したハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授らにより、ノンコーディングRNAの一つである miRNA(マイクロRNA) が発見され、タンパク質合成や遺伝子発現の調節に関与していることが明らかになりました。この発見を契機に、2000年代以降 「ジャンクRNA」は注目を集めるようになりましたが、様々な疾患において どのような役割を果たしているのか、その機能解明は いまだ発展途上です。特に、治療薬の開発が困難な神経変性疾患における機能を解明し、治療応用への可能性を探ることが重要な課題となっています。今回は、ノンコーディングRNAの最新研究を踏まえ、その神経変性疾患における機能と治療薬開発への展望についてご紹介します。

第二講演

第221回 講演会

日時: 2025年2月15日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E25-111
「師匠の背中を見て育つをデジタル化する ― 手術ロボットのログデータの解析と活用」

植村 宗則 氏

Radiology, Brigham and Women’s Hospital


近年、AIの進展により、診断機器を中心に医療機器の高度化が進んでいる。PMDAの調査によれば、医療機器が高度な自律機能を備えることで、患者と医師の関係性が変化する可能性が指摘されている。手術支援ロボットも例外ではなく、外科医の代替を目指した自律制御技術の研究が進められており、特に縫合の自動化が象徴的な例として挙げられる。 一方、われわれは自動化とは単なる手技の代替ではなく、自律制御によって生まれる新たな価値に着目し、その機能を手術支援ロボットに実装すべきと考えている。具体的には、ロボット支援下手術において頻発する潜在的な操作ミスを分析し、術者が無意識のうちにミスを回避できる機能を実用化することで、安全で安心な治療の実現を目指す。この考えに基づきわれわれは手術支援ロボットのメンテナンスデータ用いて外科医のノウハウを抽出する技術を確立した。これにより、外科医の手技を客観的に評価し、暗黙知を可視化することで、スキルレベルに応じた適切な手術支援を提供するシステムの構築を目指す。 という要旨をスライドからAIを使って作りましたのでご期待ください!

第一講演
「科学的ってどういうこと?〜医学の科学哲学への招待〜」

佐藤 達之 氏

Research fellow, Department of Anesthesia, Beth Israel Deaconess Medical Center


現代医学の研究は大きく分けて2種類あります。1つは、実際の人間のデータを用いる「臨床医学・疫学研究」、もう1つは、実験動物や細胞株などを用いる「基礎医学研究」です。例えば、「喫煙者には肺がんが多い」は前者からの知見で、「タバコに含まれる発がん物質がDNAを傷つけて細胞をがん化させる」は後者の成果です。いずれも「科学」として医学の進歩に大きく貢献してきました。 しかし、私は両方に携わる中で、2種類の医学研究では何を「科学的」と見なすかが異なると感じました。またその違いが、現代の医学研究が直面している課題、例えば日本の研究力の低下とも関連するのではないかと考えています。 科学哲学は、「科学とは何か」を問い続けてきた哲学の一分野です。今回の発表ではその議論を簡単に紹介しながら、2種類の医学研究における「科学」観の違いを整理し、さらには日本の研究の未来について、参加者の皆様と一緒に考えられたらと思っています。

第二講演

第220回 講演会

日時: 2025年1月18日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E25-111
「Let’s talk about epidemiology (& Norway) - Parity and atrial fibrillation in Norway and the U.S」

諸岡 光 氏

Stipendiat (PhD candidate), Norges teknisk-naturvitenskapelige universitet, Beth Israel Deaconess Medical Center


Hyggelig å hilse på dere! John Snowによるcholera outbreakの疫学研究から約160年、疫学は医学、社会に大きく貢献してきた。中でも、北欧はデータの質が高く、重要な疫学研究を行っている。一方で女性にフォーカスをおいた疫学研究は最近になって増えてきたが、発展途上である。なぜ女性に注目するのか? 妊娠や生理といった女性特有のファクターは、循環器疾患との関連を指摘されているためだ。今回は、様々な女性特有のファクターとその後の心房細動に関するHUNT study(Norway)とCardiovascular Health Study(USA)を用いた私達の疫学研究を紹介する。 更に、私の大好きなノルウェー(PhD、生活、ノルウェー語など)についても紹介したい。では皆さん、vi ses :)

第一講演
「AIが変える心血管疾患予防 ー進化する予防戦略とその可能性ー」

八木 隆一郎 氏

Research fellow, Division of Cardiovascular Medicine, Brigham and Women’s Hospital / Harvard Medical School


心不全や心筋梗塞、不整脈といった心血管疾患は先進国で悪性腫瘍と死因のトップを争い、途上国でも生活習慣の変化により急増しています。就業人口での発症も多く、疾患 による心臓や臓器の機能低下は不可逆的なことが多いことから、大きな疾病負担となっています。近年では、治療法の進歩により心疾患マネジメントが向上されており、それ を最大限享受するために早期発見・早期介入の重要性がますます増しています。しかし、心疾患のスクリーニングに関しては大きなアップデートがなく、効果的でエビデンス に基づくスクリーニング方法の確立は依然として大きな課題です。 近年、ビッグデータを用いて構築したAIが心電図や心エコーを解析することで、人間の専門医を上回る精度で心疾患が診断できることが続々と示され、注目を集めています。本講演では、臨床医学や公衆衛生・疫学・機械学習、そして臨床研究およびAI開発・実装までの観点から、AIを用いた次世代の心血管疾患予防戦略を概観します。

第二講演

第219回 講演会

日時: 2024年12月21日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E51-395
「好中球の多様性~第一の防御者は単一集団なのか?~」

伊藤 辰将 氏

Post-doctoral Fellow, Brigham and Women’s Hospital


好中球は19世紀に発見されて以降、外来異物から生体を第一線で防御する免疫細胞として知られてきた。これまで最終分化細胞である好中球は、特定の異物を対象としない自然免疫を担う単一集団と予想されてきたが、近年、高感度な細胞解析が可能となったことで、驚くべきことに、他の免疫細胞同様、好中球にも微小環境や臓器により異なる特徴が誘導され、不均一な集団であることが明らかとなった。 しかし、好中球は非常に短命かつ活性化して状態が変わりやすいことから、高感度な実験により新規に観測されたタイプの集団の一部は、研究結果・解釈の確実性を高めるための別の実験では観測されにくく、生体恒常性維持や疾患への役割を明らかにすることは容易でない。 本講演では生体防御機構における好中球のこれまでの位置付け概説しつつ、新たに同定された特定の異物からの繰り返しの暴露に首尾良く反応するための獲得免疫に関わる抗原提示細胞としての能力を持つタイプの好中球について、これまでの報告およびデータを見直し、今後の研究の展望について議論したい。

第一講演
「生物多様性を利用し、生命をハックする 〜真核生物からのゲノム編集ツールの発見〜」

齋藤 諒 氏

Senior Scientific Fellow, Broad Institute of MIT and Harvard


ついに昨年末、CRISPR-Cas(クリスパー・キャス)ゲノム編集を用いた鎌状赤血球症の治療が欧米で認可されました。ゲノム編集では、生命の設計図である“ゲノム”を書き換えるために、DNAを切断するナノサイズのハサミCas9を用います。こうした小さなハサミは人間がデザインして作ったものではなく、地球上での38億年にわたる長い生命史の間に、細菌がウイルスから身を守るために進化の末に獲得した分子兵器です。Cas9によるゲノム編集が開発されてからここ10年程の間、世界中の研究者がゲノム編集で使える色々なハサミを発掘してきましたが、その発見は全て、細菌などの原核生物に由来するものに限られていました。。。  本講演では、我々が世界で初めて真核生物から見つけた新しいゲノム編集ツールFanzor(ファンザー)を例として、生物多様性を利用した生物工学の方法論とともに私のビジョンをご紹介いたします。

第二講演

第218回 講演会

日時: 2024年11月16日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E51-395
「ブラックホール撮影の最前線」

秋山 和徳 氏

MIT Haystack Observatory


ブラックホール、アインシュタインの一般相対性理論が予言するこの究極的な天体は今や誰もが一度は聞いたことのある馴染み深い存在となりました。この天体の写真を撮ることができれば本当に文字通りの「黒い穴」となってみえるのか、この100年越しの謎に2019年に人類はようやく答えることができました。地球サイズの電波観測網イベントホライズンテレスコープ (Event Horizon Telescope; EHT)による近傍銀河M87の巨大ブラックホールの観測の結果、ブラックホールが初めて撮影されたのです。2022年にはさらに私たちの住む天の川銀河の心臓部に潜む巨大ブラックホールいて座A*が初めて撮影されました。EHTは2019年以後拡張が続いており、ブラックホールの周りのプラズマをより広範囲に鮮明に捉えることが期待されています。また米国や日本を中心にEHTを宇宙に拡張して、さらにブラックホールをより高解像度で撮影するBlack Hole Explorer (BHEX)と呼ばれる衛星ミッションが現在検討されています。BJRFでは2019年の特別講演でEHTのブラックホール初撮影成功の裏側をお話しさせていただきました。5年後の今回はEHTによる撮影によって明らかになった最新のブラックホールの姿、新たに浮かび上がった謎、そして今後の将来展望を紹介します。

第一講演
「子どものメンタルヘルスとウェルビーイング」

滝口慎一郎 氏

Harvard Medical School, McLean Hospital


「あなたのお話を聞かせてください」私が診察場面で子ども達に語りかける言葉です。みなさんは幼少期から青年期にどのような経験をされましたか?近年、自閉スペクトラム症やADHDといった社会コミュニケーションや行動面のつまずきを伴う神経発達症(発達障害)への関心が高まっています。未解明な部分は多いものの、遺伝的な要因と育ってきた環境が影響して精神疾患の発症や症状の悪化につながることが知られています。日本では、子どもが減っている少子化のなかでも不登校児童は増加し、若年者のうつや不安症状の低減が重要な課題になっています。本講演では、子どものこころの健康に関連する神経発達症や逆境的小児期体験について、これまでの科学知見や私が取り組んでいる診療・脳画像研究を交えてお話しします。子どもがこころもからだも健康で安心して暮らせる社会と今後の課題について、みなさんと一緒に議論できれば幸いです。

第二講演

第217回 講演会

日時: 2024年10月18日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E51-395
「医学教育の過去・現在・未来」

橋本忠幸 氏

Brigham and Women’s Hospital, Emergency Medicine


医師の養成には1億円かかる、という通説がある。これには賛否両論あるが、医師の養成には多大なるコストが必要となるのは間違いない。そして、安定した医療を提供することは国家の重要な課題であり、実際、世界各国で医師養成は国家の重要な課題として取り上げられている。では、医師をどうやって、効果的に、効率的に養成すればいいのか?それを追求するのが、医学教育という学問である。そして教育は文化に深く影響され、文化は歴史から成り立つ。今回は、日米が現在抱えている問題に焦点を当てながら、日米における対象的な医学教育の歴史を踏まえ、それらから考えるべき日本の医学教育の未来について話し合いたい。

第一講演
「ブラックホール観測と宇宙ジェット理論〜事象の地平面からプラズマ噴出領域へ〜」

恒任 優 氏

Black Hole Initiative, Harvard University


2019年に発表されたEvent Horizon Telescope (EHT)によるブラックホールの観測画像は、アインシュタインの一般相対性理論を実証する大きな成果となりました。それと同時に、ブラックホールの直接観測の実現は、銀河の中心から噴出される大規模かつ超高速のプラズマジェットの研究に新たな地平を切り拓きました。「宇宙ジェット」の駆動機構は、その発見から100年以上にわたり未解明のままであり、現代天文学における最大の謎の一つです。本講演では、これまでの宇宙ジェット研究の歩みを振り返りつつ、EHTが切り拓いた成果や、来るべき次世代EHT (ngEHT)およびBlack Hole Explorer (BHEX)ミッションがブラックホールによるジェットの生成・加速メカニズム解明に向けてどのような道筋を示すのかを、最新の理論モデルによる成果を交えながら紹介します。

第二講演

第216回 2024年度基調講演会

日時: 2024年9月21日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E51-395
「種分化の謎とジャンクDNA」

山下由起子 氏

Member, Susan Lindquist Chair for Women In Science, Whitehead Institute
Professor of Biology, Massachusetts Institute of Technology
Investigator, Howard Hughes Medical Institute


ゲノムは生命の設計図であるとよく言われますが、実際には半分以上(人間では9割以上)のゲノムDNAが何の遺伝子産物(タンパク質など)をもコードしておらず、ジャンクと呼ばれています。中でも、反復配列(同じDNA配列が、タンパク質などをコードすることもなく100万もの文字列がつながっている)はジャンク中のジャンクであり、その存在意義は不明とされてきました。これらの反復配列は生物種間でもあまり保存されておらず、重要性の低さ(つまりジャンク)の証拠であると捉えられてきました。我々の近年の結果は、これらのジャンクと考えられてきたDNAが実は「とじしろ」のような役割を担っており、染色体DNAの保持に必須であることを示しました。そこから敷衍して、ジャンクDNAの変容が種分化につながっているので はないかと提唱しています。

基調講演

第215回 講演会

日時: 2024年5月18日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「経済安全保障と産業政策ーどのようにサプライチェーンの強靭化を実現するのかー」

植田 隆太 氏

ハーバード大学ウェザーヘッドセンター


グローバリゼーションの進展は経済成長と豊かさをもたらしてきましたが、グローバリゼーションの進展による複雑なサプライチェーンは、コロナ禍や国際情勢の変化により、重要な物資の供給途絶という形で、私たちの生活に大きな影響を及ぼしました。一部の医薬品・医療機器や半導体の供給途絶が大きな影響を及ぼしたのは、私たちの記憶に新しいです。こうした供給途絶に備え、サプライチェーンを強靭化しようとする取組は、「経済」と「安全保障」にまたがる問題であり、近年、「経済安全保障」の一分野として注目を集めています。一方で、「安全保障」のために、サプライチェーンの効率性を過度に損なうことは、国民生活や経済活動に大きな悪影響を及ぼすことになります。 この発表では、こうした問題に理解を深めるきっかけとして、例えば、
• 国家公務員の仕事とはどういうものなのか(簡単な自己紹介)
• 国家公務員の仕事をしながら感じたこと(研究の動機)
• 経済安全保障の概説、サプライチェーンの強靭化で発生するトレードオフの問題(研究の背景)
• 各国の動向や歴史の比較・分析、サプライチェーンの強靭化と経済合理性を両立するための課題と方向性
などを概説的にお話ししたいと思っています。


ゲノム科学による精密医療への挑戦

谷川 洋介 氏

Computational Biology Lab, MIT CSAIL


「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。」(L. トルストイ, 『アンナ・カレーニナ』望月哲男訳. 光文社.)家族に固有の物語があるように、私たちの間にも個性とよべる違いがある。個人差の中には疾患の病態・重症度などに影響を与える要因が含まれうる。しかし、多くのヒト疾患研究では、症例と対照例の平均的な比較がなされ、個人差は十分に扱われていない。個人差を考慮するにはどうすればよいだろうか。私は、個人のゲノム情報や疾患歴など、大規模な生命医療データの利活用に解決策があると考えている。発表では、研究事例として 1. 人類遺伝学による疾患治療標的の同定、2. 疾患リスクの予測モデル、3. 疾患多様性の分解手法を紹介する。最後に、これら要素技術を組み合わせて、個人差をふまえた最適な治療の実現を目指す精密医療をどのように実現するか、今後の展望について議論する。

第二講演

第214回 講演会

日時: 2024年4月20日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「先端的個別化医療の社会実装について~医療上の価値と社会的価値のバランスはどのように考えるべきか~」

青木 智乃紳 氏

Fellow, System Design and Management, MIT


2023年12月、FDAは鎌状赤血球症患者を対象としたCRISPR技術を応用した治療薬、Casgevyを承認しました。当該治療薬は、顕著な有効性を持つものの、治療費用は数百万ドルと非常に高額です。このような医療技術の評価枠組みにはどのようなものがあるのでしょうか?また、「イノベーションの評価」とは何を意味するのでしょうか?本講演では、このような高額な個別化医療技術の価値評価の枠組みとして、QALYとICERを用いた効果の定量化を紹介します。さらに、イノベーションの社会的評価と、日米の薬価際等の背景となる日米の医療制度の違い、これら課題に対して日米での取り組み等についても考察します。こうした背景を基に、個別化医療の進展がもたらす希望と、それに伴う高額なコストが医療制度に与える影響について考察し、持続可能な医療制度とイノベーション促進の適切なバランスについて議論を深める予定です。この講演が、自然科学の研究者には科学技術を政策として捉える際のフレームワークの気づきとなり、社会科学の研究者には社会科学的側面から科学技術的事項を取り扱う際の枠組みを考える契機となることを願っています。

第一講演
「心のキャパシティ」と「やりがい」は両立可能か?-マーシャル・ガンツ教授による「Agency」理論の日本社会での実用可能性の検討-

松村 謙太朗 氏

MPP candidate at Harvard Kennedy School Trainee from the Ministry of Foreign Affairs Japan(MOFA)


HKSで数十年続く名物授業「Public Narrative」では、かつてオバマ大統領の選挙参謀として名を馳せた、コミュニティ・オーガーナイザーの祖:マーシャル・ガンツ教授が、人々を巻き込む力を持つスピーチを書き上げるワークショップや、過去のリーダーたちの社会活動におけるケーススタディを通して、リーダーシップが何なのかを学生たちと共に追求する。その中で彼が繰り返し言及した「Agency」、社会学用語で日本語訳は「行為主体性」と言うが、この概念は日本の一般社会ではほとんど触れられていない。そして彼の言うAgencyの意味は、社会学で一般的に言われるそれとも少し異なり、独自の解釈が含まれる:【ある人間が、様々な選択肢の中から、熟慮の上、主体的に一つの選択肢を選ぶことのできる、心のキャパシティ】。そして、その一人一人のAgencyを呼び覚ますことこそが、真のリーダーシップだと説くのだ。 こと、日本においては、ブラック企業による激務やパワーハラスメントが、労働者の精神を蝕んで久しい。Z世代の若者たちと管理職との世代格差が原因で、若手職員の早期離職なども問題となっている。しかし、もしも中間管理職以上の職員がこのAgency理論を理解して、異なる世代に属する部下や若手と接して仕事を行うことができたならば、彼らの職務に対する誇りを呼び覚ましながら、強固なチームワークで組織のミッションに臨むことができるのではないだろうか? 今回は、2年間のHKSでの学びの総括の意味も込め、ガンツ先生の提唱するAgencyとLeadership理論が、日本社会の労働環境において実用可能なものか、その道筋を検討する。

第二講演

第213回 講演会

日時: 2024年3月16日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
特別講演 「少子超高齢に伴う「Huge Mismatch」の処方箋 医療機関は診断+治療から課題解決を通じた価値創造の場に」

中川 敦寛 氏

東北大学病院 教授(産学連携室 EDAS)


日本は今後 40 年で大きな社会変化に直面し、「超高齢社会」に伴い、必要な医療資源の大幅な増加と、「少子化社会」による利用可能な社会・医療資源の大幅な減少という「大きなミスマッチ」を解決しなければならない。さらには、人生100年時代で、健康寿命を延伸するために、医療機関は、従来の「診断+治療」だけでなく、健康・予防から治療後に至るまで、ひとりひとりの健康全体(Health Continuum)にコミットすることが求められる。 東北大学病院は、2014年よりアカデミックサイエンスユニット(ASU)を、2020年にはオープンベッドラボを設立し、企業の研究開発者に対して医療現場を開放し、医療従事者とともに事業化に資する課題探索かプロトタイプのテストを6か月のプログラムとして提供してきた(10年間で 61 社、1,600 名を超える開発研究者を受け入れ)。2019年よりスマートホスピタルプロジェクトとして、産学連携室、デザインチームを設立し、企業とのコクリエーションにより、医療現場から広くは社会の課題を解決し、質の高い医療ヘルスケアを持続的に提供につながる事業創出に関わってきた。事業化に資する課題の探索からスケーリングまでの全体をデザイン(holistic Design)できる人材に関するニーズが明らかとなり、デザインヘッドの教育も行っている。 病院が、社会インフラとしての新たな機能、スペシャリスト、ノウハウを持ち合わせることで、臨床、研究だけでなく、新しい機器、ソリューションの開発から始まり、医療現場の課題解決、イノベーションを通じた社会課題やHuge Mismatchの解決に貢献する場となることを目指す東北大学病院の取り組みについて紹介する。質疑応答では、コクリエーションパートナー企業、当院のインターンも参加し、医療機関が果たせる可能性についてディスカッションする。

第一講演

第212回 講演会

日時: 2024年2月17日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「東アジアの安全保障 ~国際政治リアリズム理論とトゥキュディデスの罠における『非共感』比較~」

伊藤 聡 氏

Harvard University, Weatherhead Center for International Affairs, Program on US-Japan relations


現在ウクライナ-ロシア、イスラエル-パレスチナで凄惨な戦争が勃発している。日本人の世論調査では「台湾有事」懸念が高まり、ハーバード・ケネディスクールのグラハム・アリソン教授も「米中戦争」への警鐘を鳴らしている。国家はなぜ戦争するのか。国際政治のリアリズム理論は「Threat(脅威)」認識の高まりが、戦争や同盟の動機になると説明する。しかしどんな場合に国家が戦争、同盟、中立等を選ぶかについて、「Threat」認識だけでは十分に説明できない。本研究では「Threat」に加え、相手国に対する「Unsympathy(非共感)」感情が加わると、戦争を起こす可能性が高まることを指摘する。国家間のUnsympathyの度合いは、人種、宗教、歴史、文化、政治・経済体制、慣習や、それらから導き出される国家戦略等の要素がどの程度異なるかによって、ある程度測定できると考える。したがってUnsympathyを低減させる戦略的方法が考案可能であり、それを実行することで、戦争勃発の可能性を低減できると主張する。

第一講演
「ゲノミクスからみるがん免疫治療」

辻 淳子 氏

Cancer Program, Broad Institute of MIT and Harvard


がんの原因となるような異常な細胞は、健康な人の体でも毎日数百から数千個も発生するといわれています。通常そのような細胞は、免疫の働きによって排除されますが、老化による免疫力の低下や免疫細胞の認識ミスなどによって生き残った異常細胞が増殖し、がん化します。近年のゲノミクス技術の進展により、変異してしまった標的遺伝子やタンパク質を、特定のがんの種類はおろか、個人のがんゲノムのレベルで検出できるようになりました。本講演では1人のがんゲノム情報から、どのようにして「がんと戦う武器」をデザインしていくのか、がんを標的とするワクチンや人工的にプログラムされた免疫細胞療法を例にお話しします。

第二講演