ボストン在住日本語話者による、知的交流コミュニティーです。
鉄腕アトム、ドラえもん、R2D2・・・21世紀に実現すると言われてきた「人と 共生するロボット」。高齢化による介護ニーズ、女性の社会進出による家事ニー ズ、労働人口の減少による労働代替ニーズなど社会の要請の強さ、また世界トップシェアの産業用ロボットで培った技術力の高さからも、日本の未来の一大産業としてロボットへの期待は高まる一方です。また、ロボットは機械、電気、材料、人工知能といった工学分野の結晶で、技術者にとって大変夢のある、挑戦し甲斐のあるテーマでもあります。しかしながら、AIBOで市場を切り拓いたかに見えたソニーもIT不況に苦しむ中で開発予算をほぼ打ち切るなど、なかなか商品としての姿は見えてきません。娯楽を超えた万能ロボットには技術的な課題も山積みです。そんな中、経済産業省 は先日発表した「新産業創出戦略」でロボット産業を重点的に育成する方針を示しました。2025年のロボット市場は6~7兆円、部材・最終製品・周辺サービスまで含めた裾野の広い産業になると見積もり、技術開発、実証試験、官公需要創出、ロボット導入にあたっての優遇措置、免許や保険といった制度基盤など、具体的 な政策づくりに取り掛かっています。新産業の創出に向けては技術の進歩、政策の整備に加えて、参入し市場立ち上げを担う企業が的確な戦略をもつことが欠かせません。技術の完成度、ニーズの顕在化度合い、提供可能な価格帯を睨みながら、いつ、どのような商品を出すか?川上から川下まで幅広い業態がありうる中で自社の強みをどこに見出し、誰と協業し、どこで競合優位を築くのか?ソフト・ハードとも複雑をきわめるロボットのシステムを速く・高品質に開発するために標準化を仕掛ける、あるいは乗るべきか、それとも独自仕様で差別化すべきか?これらの方向に沿って研究開発は、マーケティングは、チャネルやサービス体制はどうするか?不確実な市場でこうした問いに答えることは容易ではありません。ロボットの要素技術(センサー、アクチュエータ、組み込みシステム)は自動車、モバイル、デジタル家電業界にあり、ここでロボット市場獲得に向けた前哨戦が行われています。基盤技術の多くを海外勢に押さえられてしまったPC・サーバー・インターネットと違い、これらの業界では日本企業が世界をリードしながら、他国が直面したことのないタイプの戦略課題に取り組んでいます。いくつかのケースでこれらの業界をひも解きながら、将来のロボットの産業構造、戦略を考える視点を展望してみたいと思います。
ボストンにあるいくつかの大病院では、数万匹の熱帯魚を飼育しているのをご存知でしょうか?ゼブラフィッシュという小型熱帯魚を使って、癌や循環器疾患、神経系疾患などに関わる遺伝子の研究が、近年、盛んに行われています。今回は、ゼブラフィッシュの研究がどのように難病の原因究明に貢献するかを、失明の原因となる遺伝子の研究を例として解説したいと思います。また、発表の後半では、ゼブラフィッシュを使った新薬の開発が実際に進められており、巨大製薬企業の合併合戦のひとつの鍵となる現状を紹介したいと思います。
筋肉の収縮にカルシウムが重要であることはご存知でしょうか? 筋細胞は神経より興奮が伝わると、細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)が劇的に増加します。その差は平常の約100倍。このカルシウムイオンの増加が、 筋肉収縮におこす元となっていることは意外と知られていないようです。 筋細胞のCa2+濃度はリアノジン受容体によって制御されています。このリアノジン受容体は、Ca2+濃度制御の要でありながら、その巨大さゆえ研究が非常に難しく多くのことがわかってませんでした。それが最近、それがペプチドと、蛍光色素と、「生物物理学」的手法によって、リアノジン受容体の実態がすこしずつ解明されてきました。今回の発表では最近のDNAや組み換えタンパク質を使った分子生物学的なアプローチとは一味違った、「生物物理学」的研究戦略がどのようなものか紹介したいと思います。
2003年、日本では大規模な医療制度改革が行われました。その目玉の一つが、医学部卒業後に行われる研修の必修化です。新制度では、医者の卵たちは全員、病院で2年間の研修を義務付けられることになったのです。さてここで医学生と病院の双方にとって重大な関心事となるのが、いったいどの学生がどの病院で研修をするかということです。学生にとっては充実した研修プログラムで研修を受けることが後のキャリアに重要な意味を持つ一方、病院側としても優秀な学生を採用したいという思惑があります。このプロセスをなるべく効率的に行うために、新制度ではある一定の仕組みに従って、医学生と病院は中央集権的にマッチされることになりました。このように新しい「市場」を立ち上げる時にどんな制度を作ればいいのかは難しく、興味深い問題です。果たして学生も病院も満足のいくようなルールはあるのでしょうか。仮にそれが見つかったとして、現実的に運営できるのでしょうか。 このような問題に経済学のツールを使って答えようとするのが、『Market Design』と呼ばれる分野です。アメリカでは90年代に、研修医マッチングの制度改革に経済学者たちが貢献し、成功を収めています。彼らは他にも、大学寮の部屋の割り当てルール作り、ニューヨークやボストンの高校入試制度改革、オークションの設計、果ては生体腎移植の効果的な実行(!)まで、ありとあらゆる問題に挑んでいます。今回は研修医マッチングと高校入試制度の話題を中心として、新しい経済学マーケットデザインの これまでとこれからを展望してみたいと思います。
日本では近年、民間による公益的活動のための法的仕組みとしてのNPO(= Nonprofit Organization)法人に熱い視線が注がれています。それとともに、これら団体・法人の課税上の取扱いも、政府内外で盛んに議論されています。 NPO課税の見直しは、実は日本だけではなく、アメリカを初め各国に共通するトレンドなのですが、問題の性質上、どうしても政治的な論争が先行しがちな反面、理論的な視点は等閑視されがちです。こうした議論状況は、「そもそも利益を目的に活動していないNPOがなぜ課税されなければならないのか?」が多くの人にとって納得しにくい問題であることを考えれば、当然の結果とも言えます。 そこで、この報告では、NPOに対する価値判断はいろいろあるにしても、まずは議論の土台となる理論的枠組みを提供することが法理論家の役割であるとの立場から、最新の理論動向も踏まえつつ、この問題に対する租税法学者のアプローチの仕方・考え方をわかりやすくお伝えしようと思います。
新聞やテレビを通じてマスコミ報道に日々接していて、色々と疑問に思うこと、取材をしている記者自身に話を聞いてみたいと思ったことはありませんか。報道記者がどのようにしてニュースソースを開拓して、記事を書いているのか、ご存じない方も多いのではないでしょうか。今回は大手メディアの記者としての経験から、特ダネをめぐる熾烈な争いとは、大事件や大事故の現場で、記者が何を感じながら、どのように報道してきたのか、またアメリカでのジャーナリズムの動向、中でも研究者や科学者の皆さんにとっても感心が深い、アメリカの科学ジャーナリズムのダイナミズムについてご紹介します。アメリカのジャーナリスト達が直面している試練についてのディスカッションや、記者からインタビューを受ける際のコツのご紹介等も行えればと思っています。
我々生命体は光無くして生きていけません。この21世紀において、全人類の健康と永続的な平和に向けて光技術は最も重要なテーマになることでしょう。光は粒子でも有り波動でも有ると言われています。その光の波の性質を生かした技術「ホログラフィ」を用いて作成された物を「ホログラム」と呼びます。ホログラムは光の振幅と位相の情報を干渉縞の形で記録された物で、我々が住んでいる自然界と同じ3次元情報を記録することが可能であり、また一方、光を用いることにより記録された3次元情報を瞬時に復元することが可能です。これを応用することにより、人に優しい3Dディスプレイや透明な細胞を観察することが出来ます。そして将来は複雑系を解明することも可能になるのかも知れません。この「ホログラム」に関する応用と人類未知未踏の領域を追いかける「浜松ホトニクス」に関してご紹介致します。
生分解性プラスチックをはじめとして、とうもろこしデンプンなどを原料に利用した製品開発が注目されています。植物由来原料による物質生産は、有限である化石資源に依存しないため、持続的で循環型の社会形成と二酸化炭素の削減による地球温暖化防止が期待できるのです。こうした生産プロセスの実現には、微生物の力を利用した物質変換技術(発酵技術)が欠かせません。特に、商業ベースの生産には、優れた微生物を用いた極めて効率的な物質変換が求められます。代謝工学の目的の一つは、高度な解析技術や遺伝子工学技術を駆使して、微生物の能力を評価したりさらに高める方法を開発することです。微生物の内部で起こっている反応は、どのような方法で「見る」ことができるのでしょうか?優れた生産菌を生み出すにはどこを変えたらよいのでしょうか?当分野の最新研究をわかりやすくお伝えしようと思います。
近年、う蝕とは細菌感染による歯質の崩壊であることが広く知れわたるようになり、その予防にも注目が集まるようになりました。にもかかわらず、永久歯のう蝕有病者率(むし歯になったことのある割合)は85%と依然高い割合を示しています。インターネットで手軽に情報を手にいれることができるものの、あまりに膨大な情報量で面食らってしまう方も多いのではないでしょうか。さらに、知れば知るほど”結局何が原因でどうしたらいいの?”という状態に陥った経験は ありませんか????。図やイラストを使いながら、また、聞いてみたいけれど聞けなかった歯医者さんへの素朴な疑問にもお答えしながら、う蝕の原因とその予防をわかりやすくお話したいと思います。
1950年代に栄華を極めたデトロイト市は皮肉にも車社会の発展とともに中流階級以上の人々や工場が郊外へ移動した結果都市中心部には職を失った労働階級が残され、スラム化してしまいました。 50年以上たった今もデトロイトはこのスラム化によって生まれた郊外と中心部の税収面、職業面、治安面等における地域格差に悩まされています。空洞化によるスラム化現象は何もデトロイトに限りません。アメリカ国内の多くの都市が抱える問題であり、又、遠からぬ将来日本の地方都市も直面する問題だと思われます。ではデトロイトはどう生まれ変わろうとしてるのでしょうか?スラム化した都市がどのように都市再生を試みているのか、どう再生する可能性を秘めているのかデトロイトを通して、その一端をご紹介します。