ボストン日本人研究者交流会 (BJRF)

ボストン在住日本語話者による、知的交流コミュニティーです。

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2012

第112回 講演会

日時: 2012年12月15日(土) 16:20-18:45
会場: MIT E51-325
「モンテカルロ法のとりせつ」
諏訪秀麿 氏
ボストン大学物理学専攻 客員研究員
日本学術振興会 海外特別研究員

モンテカルロ法は物理・化学・生物・医学・統計・工学・金融等で広く使われている計算手法です。1947年に数学者と物理学者によって発明さ れ、今日では理系のみならず、経済学専攻やビジネススクールでも取り上げられています。モンテカルロ法の主な使い方は、コンピュータを用いて「積分」を計算することです。積分が求まると、実験データの検証・理論モデルの推定・金融リスクの評価といったことができます。そのように広 く用いられる理由のひとつとして、モンテカルロ法は、実は「簡単」なのです。知っておいて損はありません。本講演では、モンテカルロ法とは何なのか、何が計算できるのか、実際にどうやって計算するのかを「取り扱い説明書」のようにわかりやすく説明します。また講演者が最近開発した新しいアルゴリズムについても述べます。モンテカルロという単語を初めて聞く方も、ご自身の専門分野で「こんな計算に使えるのでは?」というアイデアが湧くような講演を目指します。

第一講演
「歯科におけるテクノロジーとイノベーション」
丸尾勝一郎 氏
Department of Restorative Dentistry and Biomaterials Sciences, Harvard School of Dental Medicine

「歯医者」と聞くと、皆さんあまり良いイメージがないと思います。
- 痛い
- 歯を削る音が嫌だ
- 薬くさい
- 型取りが苦しい、気持ち悪い
- 何度も通わなくてはいけない
など挙げるとキリがありませんよね。
様々な分野で技術革新が目覚ましい現在において、どうして歯科ではこういったイメージが根強くいまだに払拭されないのでしょうか。
また、日本ではアメリカにくらべ国民健康保険により治療費が安いこともあり、歯が体の一部にも関わらず軽視されがちな傾向にあるように感じます。
本講演では、デジタルの発達に伴い急速に変化しつつある歯科治療における「テクノロジー」を私の専門分野であるデンタルインプラントを中心に解説したいと思います。
さらに、それら「テクノロジー」がいったいどのような「イノベーション」を歯科にたらすのか、私なりに考察してみたいと思います。
講演を聞いた後に皆さんの歯科へのイメージ、歯への価値観が少しでも変われば幸いです。

第二講演

第111回 講演会

日時: 2012年11月17日(土) 16:20-18:45
会場: MIT E51-325
「ナノカーボンって何なの? ~微笑炭素四方山~」
井原和紀 氏
マサチューセッツ工科大学 機械工学科 客員研究員
日本電気株式会社 スマートエネルギー研究所

ナノカーボンってご存じですか?
ナノカーボンはナノメートル領域の炭素材料の総称で、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなど様々な炭素材料を言います。これらナノカーボンはそれぞれがユニークな特徴を持ち、電子材料や自動車や航空機、建築の構造材料など様々な分野において幅広い応用が期待されています。しかし、ナノカーボンとはどんなモノであるのか?ということは一般にはあまり知られていません。
そこで、本講演ではナノテクノロジーの牽引役でもあるナノカーボンについてご紹介します。まず、フラーレン・カーボンナノチューブ・グラフェン等について簡単に概説し、ナノカーボンの世界へ誘います。その後、日本発の材料と言われるカーボンナノチューブについて、その構造や性質、応用について掘り進めて行きます。最後にカーボンナノチューブの応用事例である薄膜トランジスタに向けた、カーボンナノチューブの半導体・金属分離についてお話しします。

第一講演
「米国から見た日中尖閣危機」
加藤嘉一 氏
ハーバード大学ケネディースクールフェロー
英フィナンシャルタイムズ、The Nikkei Asian reviewコラムニスト

“2012”は世界史にとって節目の年になるであろう。数十年後に、本年がどのように描かれるのか、今から好奇心をそそられてしまう。
世界各国でリーダーが変わる。変わらなかったとしても、権力移譲(power transition)をめぐる地殻変動は、グローバリゼーションの時代を生きる私たちに、過去を見つめ、現状を正視し、未来を展望するうえでの貴重な示唆を与えてくれるに違いない。
私が本文を執筆している2012年10月24日現在、アメリカ大統領選の結果はいまだ闇に包まれたままだ。皆様とお会いする頃には明らかになっている。一つだけ言えることは、世界システムのパワーバランスが西から東へとシフトしていく今日、誰が大統領になったとしても、アメリカは東アジア、特に中国と日本という、自らに続く世界第二、第三の経済大国を重視せざるを得ないということだ。
オバマ氏が言うように、アメリカは「アジア太平洋国家」なのである。
アメリカの国益を直接脅かしかねない動きを見せているのが、日中間における尖閣危機である。その領有権を巡り、静かだった海の波が高ぶりを見せている。一体何が起きているのか?なぜ日中はあの無人島を巡って、一触即発の危機を起こしかねないほど正気を失ってしまうのか?今日中を取り巻く地域に、どのような地盤沈下が起きているのか?構造的問題なのか、それともナショナリズムを背景にした突発事件なのか?中国各地で勃発した反日デモは、いったい何を意味しているのか?
太平洋のこちら側から、あちら側で起きている危機を考える。

第二講演

第110回 基調講演会

日時: 2012年10月20日(土) 16:20-18:45
会場: MIT E51-315
「オープンネットワークにおけるイノベーション」
伊藤穰一 氏
マサチューセッツ工科大学 メディアラボ所長
Director, Media Lab, Massachusetts Institute of Technology

ムーアの法則に沿ったコンピュータの性能向上とインターネットの存在が、あらゆるものを変えてきた。イノベーションが生まれるエコシステムの境界では、標準規格は非政府の団体によってつくられ、特許や著作権などの知的財産権はむしろ足かせとなり、また、綿密な計画よりも行動力が重要となる。生産・流通・連携のコストの劇的な低下が起業を拡大し、インターネットやソフトウェアの世界で、爆発的なイノベーションを生み出してきた。そして、ハードウェアやバイオテクノロジーの分野でも、同様の変革が起こりつつある。
本講演では、オープン・ネットワークにおけるイノベーション、そのリスク、起業、そしてそのような環境における MIT MediaLab の役割とその道程について議論する。

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第109回 講演会

日時: 2012年9月22日(土) 16:20-18:45
会場: MIT E51-315
「惑星科学の40年来の課題を解決した日本の小惑星探査衛星はやぶさ」
廣井孝弘 氏
ブラウン大学惑星地質 上級研究員

日本の小惑星探査機はやぶさは、小惑星イトカワへの7年間の波乱万丈の航海の末、2010年6月13日にその試料を持ち帰りました。探査機が他の天体に着陸して試料を持ってきたのは、1970年前後の米ソの月着陸以来の快挙でした。月の試料が手に入るまでは、実は月の表面が何でできているかについてはっきり分かっていませんでした。特に、なぜ月の海が暗くて高地が明るいのかは、異なった種類の岩石で出来ているだけでなく、宇宙風化という現象が海を暗くしていたのです。そのような作用が小惑星にも存在するのかという議論が惑星科学の分野において40年間続いていましたが、はやぶさが持ち帰った試料によってそれがとうとう解決されました。今回の講演では私が約30年間してきた隕石と小惑星のつながりの研究と、それが如何にはやぶさ計画に生かされてきたかをお話したいと思います。

第一講演
「時間を測る」
川崎瑛生 氏
Department of Physics, Massachusetts Institute of Technology

皆さん時間を測るときはどうやって測りますか?本公演ではこの素朴な疑問に答えることから始めて、世界最高精度の時計を作ろうと日々研究がなされている原子時計の研究の世界をご紹介します。
原子時計の歴史は古く、戦後すぐ位には最初の研究が始まっています。この50年の間で精度は5桁向上し、3000万年たっても1秒しかずれない時計が存在します。そして、現在ではその2桁、3桁上を行く精度の時計を開発しようと世界各国の研究グループが激しい競争を繰り広げています。
彼らはどのような困難に直面し、乗り越えてきたのでしょうか?どのようなものを作ってきたのでしょうか?精度を極めていったときに見えてくるものは何なのでしょうか?これほどまでに精度の高い時計を作ったところで日常生活の役に立つのでしょうか?
このようなテーマに関して、物理屋の視点から、難しい部分は分かりやすい例えを多用しつつお話ししたいと思います。

第108回 講演会

日時: 2012年5月12日(土) 16:00-18:30
会場: MIT E51-315
「アジア地域統合とアメリカの役割~日米同盟、TPP, 地域協力」
羽場久美子 氏
青山学院大学 教授
ハーバード大学 客員研究員

「EU(欧州連合)は今,金融危機で大変ですね。なぜ地域統合をアジアで推進しようと考えるのですか」これが最近,私の研究や講演に対する,日本・アメリカを問わず,聞かれる問いである。しかしグローバル時代においては,先進国の長期的衰退と,新興国の成長という主要潮流が本質的な問題である。短期的にはEUが大変に映るかもしれないが,アメリカ,日本も見方によってはEU以上に大変な危機に直面している。グローバル化の中で,「先進国」全体が,新興国からの競争による挑戦を受けているのである。アメリカも現在,自らを,成長を遂げる「アジア太平洋の一員」だと唱えて,生き残りをかけた地域戦略に突入しているのである。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)のねらいも,そこにある。日本も,3.11の大災害を経て,どのように復興の道を探っていくのかというとき,アジアの地域統合と世界との共存が,最も重要な方策である,と確信する。

第一講演
「ケムインフォマティクス:アカデミア・企業・個人における情報化」
久枝秀次 氏
PerkinElmer Inc., Director, Asia Pacific Operations / Informatics

皆さんは日々の研究や日常生活のなかで様々な「情報」や「データ」をどのように取り扱っていますか?PCやインターネット、携帯端末などの発展にともなって、取り扱える情報の量が増え利便性も高くなり、研究やライフスタイルも知らず知らずのうちに変わってきてはいませんか?実際のところ多くの情報に迅速にアクセスできる環境や情報に関する周辺技術が整い、研究の質もスピードも年々向上しているのではないでしょうか。一方、新しい課題も出てきています。例えば、膨大なデータをどのように効率的かつ有効に利用するのか、またデータの安全性をどう考えるのかなどという点です。今回はケムインフォマティクスとは何かということから始め、化学研究に関する情報処理の環境を中心に、昔と比べてどのように研究データが取り扱われ、新たな課題にどう取り組んでいるかをお話しします。また、化学に限らず現在利用可能なテクノロジーや情報を有効に扱う上でのポイント、そして注意点などにも触れ、「インフォマティクス」を皆さんの身近に感じてもらえればと思います。

第二講演

第107回 講演会

日時: 2012年4月17日(土) 16:00-18:30
会場: MIT E51-325
「アメリカ大統領選挙と日本」
太栄志 氏
Weatherhead Center for International Affairs, Harvard University

11月6日におこなわれる超大国アメリカの大統領選挙は、世界の指導者が選ばれる選挙でもあり、世界中からの注目が集まる。
2008年に、変革 を掲げて弱冠47歳で就任した現職のバラク・オバマ大統領が再選を果たすかが最大の焦点であり、圧倒的な資金力と現職の強みを活かした有利な戦いを展開すると見られている。しかし、アメリカ大統領選挙は、選挙直前の景気・雇用情勢や対外危機の有無、大衆のムードなどの外的環境も当落を決める大きな要因となりうる。そして、オバマ大統領再選の阻止を狙う共和党では、例年になく長期化した予備選挙の結果、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が候補者となることがほぼ確実となった。
日米両国で政治に携わった経験をもとに、両国の政治及び選挙の比較の視点から、アメリカ大統領選挙のシステムや最新情勢を出来るだけ分かりやすく説明し、その上で日米の政治の魅力や問題点について考えていきたい。

第一講演
「Say hello to 心臓幹細胞」
細田徹 氏
ハーバード大学 ブリガム&ウィメンズ病院
東海大学 創造科学技術研究機構

幹細胞(かんさいぼう)と言えば、山中先生のiPS細胞をご存じかも知れませんが、今回の主役は心臓にすんでいる幹細胞です。
私たちが生きている間、片時も休むことなく働き続ける心臓。その筋肉(心筋;しんきん)は、私たちが生まれてから死ぬまで、ずっと変わらないと信じられて来ました。ところが2003年に心臓幹細胞が発見され、ヒトの一生の内に、心筋が10回以上も完全に置き換わっていることが分かって来ました。また、心臓幹細胞を使って病気を治せることも示され、既にヒトの心不全(しんふぜん)の治療が始められています。
今回は、心臓とは何か、心臓幹細胞とは何かについてお話しした後、未来予想図ではなく現在進行形の再生医療について、分かりやすくご紹介したいと思います。

第二講演

第106回 講演会

日時: 2012年3月17日(土) 16:00-18:30
会場: MIT E51-315
「DNAが語る進化の物語 ~生命の起源から日本人まで~」
中川草 氏
Department of Organismic and Evolutionary Biology, Harvard University
国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター

「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」
これはボストン美術館に所蔵されているポール・ゴーギャンの絵画の題名ですが、
今回は最新遺伝学の立場から、これらの疑問に少しでも答えたいと思っています
(あくまでも生物学的な側面からで、精神的な側面からではありませんが)。
私たちを含め地球上に存在する(ほぼ)全ての生物は、構成する細胞の中にDNAという分子を持っていて、その配列に様々な情報をコードしています。従って、DNA配列を解読すれば、その生物の性質を明らかにすることができます。
近年、DNA配列を解読する技術が凄まじい勢いで発展しています。具体的には、1990年にスタートしたヒトの全DNA配列を解読するプロジェクトは、世界中の数千もの研究者が共同し、13年に渡って、アメリカ国内だけでも38億ドルもの費用をかけて完了しました。しかし、現在では、ヒトの全DNA配列情報の解読は、数人のグループで一週間程度、費用も消耗品だけならば1000ドルでお釣りが来るほどになりました。
このような技術革新を追い風として、様々な生物の全DNA配列が解読されてきました。
そして多様な生物種のDNA配列を比較解析することにより、生命の起源から現在地球上に存在する生物に至るまで、およそ40億年に渡る生物の進化の軌跡を辿ることができます。
私たち日本人がどこから来て、どのように進化したのか、また人類の共通祖先はどこでいつ誕生したのか。それらは私たちの細胞のDNA配列情報のみならず、お腹の中に住んでいる共生細菌や感染しているウイルスなどのDNA配列解析からも明らかになってきました。また、哺乳類はどのように誕生し、進化していったのか、DNAを中心とした遺伝情報の仕組みはどのように進化したのか。そして、将来私たちはどのように進化していくのか。
DNAという視点から、こういった生物の歴史というもつれた糸を、解きほぐしてみたいと思います。

第一講演
「変化は辺境から起こる ~日中地域産業の「現場」から見た地域経済活性化の意義と方策」
姜雪潔 氏
一橋大学大学院商学研究科特任講師
Visiting Scholar, Reischauer Institute of Japanese Studies at Harvard University

あの震災から早くも1年。
復興に向けて何よりも大事な「長期雇用の創出」は、残念ながら際立って成功したモデルがまだ多く現れていません。超高齢化、人口減少、産業が空洞化する地域において、産業再生のうなりを作り出すのがいかに難しいことか、思い知らせる1年間でもありました。
しかしながら実際は、沿岸部被災地は、震災の前からすでに産業の再生、雇用の創出に苦しんでいる地域がほとんどです。例えば「新日鉄の町」の釜石市。ピーク時に9万人規模の町だったが、高炉の休止に伴って雇用が減り、人口も急激に流出し、震災前からすでに3万8千人程度になっていました。日本全国を見渡すと、1719の自治体のうち、釜石のような人口と雇用が減っている地域は全数の76%も占めています。
言うまでもなく、地方が疲弊する背景には、グローバリゼーションの影響が非常に大きくあります。プラザ合意以降の円高により、高度成長期に地方が一生懸命誘致した企業は、その生産拠点を地方圏から海外へシフトを加速させ、、特に改革開放後に急成長した中国沿海部に、ものすごい勢いで吸い込まれていきました。戦後の復興、経済の高度成長を経て豊かになった日本の地方が、このように取り残され、いつの間にかガラリと姿が変わり、まるで「先進国の辺境」のような印象さえ見受けられます。しかし、かつて製造業の神話を持って全世界を驚かせた日本は、次に、少子化、超高齢化、ポスト工業化と対中進出など複合的な課題への解決モデルとして国際的に期待されるのではないかと思われます。
このモデルの研究のために、過去6年間、日中の「辺境」地域で仕事する人々を訪ね、製造業現場を中心に歩き回りました。「地域活性化」の課題をめぐり、中小企業500社余りに対する現場調査から肌で感じ取ったことを、3月17日の報告で皆さんと共有し、一緒に考えていきたいと思います。

第二講演

第105回 講演会

日時: 2012年2月18日(土) 16:00-18:30
会場: MIT E51-315
「放射線びじねす」
水谷治央 氏
Lichtman Lab, Molecular and Cellular Biology, Harvard University

東北地方太平洋沖地震で引き起こされた福島第一原発の事故を契機に、一般の人が放射線を意識する機会が増大した。日本の報道では、放射線の被ばく量を評価する目安として、「東京-ニューヨーク間を往復したとき(約0.2mSv)」の値や「X線CT検査を行ったとき(約7mSv)」の値がよく目についた。いまや、日本では、ニュートンやクーロンという単位の存在は知らなくとも、ベクレルやシーベルトは、相当な有名人となってしまった感が否めない。
放射線は適切に扱えば、私達に大きな恩恵をもたらしてくれる。病院に放射線科が存在することを考えれば、その医学的貢献度が大きいのは明らかである。特にX線を用いた断層撮影(X線CT)は、体内を非侵襲的に検査できる画期的な手段であるため、世界中で1日に40万件の撮影が行われている。今回、私達はベイズの理論を基礎とした新規のCTアルゴリズムを開発し特許を出願した。本アルゴリズムは、既存のCT技術では偽像が生じていた輪切り像の画質を飛躍的に改善すると同時に、X線の外部被ばく量を大きく低減させることに成功している。その技術は、医学応用のみならず、3次元的に積層されつつある半導体チップの検査にも今後大きく貢献することが期待される。
この技術を社会に還元する手段として起業化の可能性を模索している。医学応用を考える上でのビジネスモデルは、クラウドによる最先端医用画像の提供などが想定される。産業分野においては、品質検査に必要な分解能と感度の上昇が大きな需要となる。今回発明したCT技術を用いることで、これらのニーズを満たす可能性を解説し、この小さなシーズを大きく育ててみたい野心溢れる方々の興味を歓迎する。

第一講演
「運動学 とりあえず体を動かそう」
親川雄介 氏
Northeastern University

普段の食生活を変えるだけでは、体重が減るどころか実は、リバウンドしやすい体質になってしまうということをご存知でしたか?
体重を減らしたい、お腹周りの脂肪をとりたい、腰痛を防ぐためには日ごろからどうすればいいか。
有酸素運動と無酸素運動の効果の違い、そしてなぜ全力疾走だけでは体重が減らないのか。
こうした疑問に「運動学」の観点からお答えしたいと思います。
運動学とは関節や筋肉の機能を解析することによって「動き」を探る学問で、解剖学、生理学、力学を統合した学問です。
たとえば、運動学の知識を使って、パーソナルトレーニングやリハビリテーションを行う際に、効率よく目的に適ったプログラムを組むことが出来ます。
日本ではあまり馴染みのない分野ですが、ランニング人口や自転車利用も増え、健康ブーム真っ只中という事もあり、その重要性が見直されています。
今回の講演では、効率の良いダイエットの方法、治療や病気の予防の為の運動方法や、一般的なウェイトトレーニングの方法についてお話します。
ぜひこの機会を使って自分の体と向き合ってみませんか?

第二講演

第104回 講演会

日時: 2012年1月21日(土) 16:00-18:30
会場: MIT E51-315
「宇宙開発 夢と現実」
小野雅裕 氏
マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科博士課程, 技術政策プログラム修士課程

火を吐き雲を裂き地を轟かし、怒る龍の如く天に昇るロケット。その気骨稜稜たる姿を見るたびに、僕は興奮で魂が震える思いがします。その光は未だ圧倒的な優越を誇る大自然に対する人間文明の数少ない勝利の記念碑の輝きと見え、その音は約束の地へ行進する選民たちが高らかに歌う歓喜の音楽と聞こえます。しかし、その夢を自分の生業に選んだとき、さまざまな現実が僕の眼前に立ちはだかりました。今回の講演は宇宙開発の夢と現実についてのお話です。
ここ数年、俄かに「宇宙」がニュースを賑わしています。世界ではじめて小惑星の砂を地球に持ち帰った「はやぶさ」の業績が、サイエンス誌により「2011年の10大発見」選ばれました。今年には建設に14年をかけた国際宇宙ステーションが遂に完成し、星出さんが5月より長期滞在する予定です。昨年にスペースシャトルが30年の輝かしい歴史に幕を下ろした一方、オバマ大統領は2030年ころに人類を火星に到達させる計画を発表しました。アメリカの新たなライバル・中国は、日本や欧州に先駆けて有人宇宙飛行を成功させ、さらに人間を月に送る計画も発表しています。また、民間の宇宙開発も活気付いています。 PayPal の設立で財を成したイーロン・マスク氏率いる宇宙ベンチャー Space X は、日本の H-IIA ロケットに匹敵する性能を持つ Falcon 9 ロケットを自力開発し、打ち上げに成功させました。 Virgin グループ会長である起業家兼冒険家のリチャード・ブランソン氏は、宇宙旅行会社 Virgin Galactic を立ち上げ、2012年内に第一号の民間宇宙旅行者を送り出す予定です。本講演では、過去の栄光、現在の取り組み、そして未来の展望まで、宇宙開発50年の叙事詩を話の縦糸とします。
しかし、宇宙開発はディズニー映画ではありません。「夢」という名の包装紙を剥がしてみれば、中には政治的、軍事的な思惑が絡み合う現実があります。そして宇宙開発はとかく金食い虫です。日本のH-IIAロケットのコストは一発約100億円、スペースシャトルは一発約1000億円。歴史上もっとも高額なプロジェクトといわれる国際宇宙ステーションに到っては、総建設費が約15兆円という天文学的な額で、これは東京スカイツリー約200本分の建設費に当たります。そして、これらの宇宙開発費用の大部分は未だに税金から拠出されています。気候変動、食糧危機、貧困、災害、戦乱など、地上に問題が山積している時代に天上を目指す価値はどこにあるのでしょうか。うつつの仕事で手一杯の時に夢にまどろむことは許されるのでしょうか。本講演では、宇宙開発の社会的、文化的、文明的価値についての議論を横糸として織り込んでお話したいと思います。

第一講演
「自衛隊の活動:PKOと災害派遣」
柴田幹雄 氏
ハーバード大学アジアセンター上席研究員
(元陸上自衛隊中央即応集団司令官)

自衛隊の第一義的な任務は、日本の防衛ですが、そのほかに災害派遣や、国際貢献としてのPKOなどの活動も行っています。最近はそれらの活動を通じて多くの人が自衛隊に関心を持つようになりました。そこで国際貢献と災害派遣について主としてお話ししたいと思います。
まず、最近できた陸上自衛隊の「中央即応集団」という部隊が、国際貢献の中核として活躍していますので、その部隊と、自衛隊の行っている国際貢献活動について紹介します。
次に、昨年3月11日に発生した東日本大震災及び津波被害に対する災害派遣では、自衛隊は文字通り前代未聞の10万人態勢で人命救助、民生支援を行いました。さらに米軍も「OPERATION TOMODACHI」を発動、大々的に日本を支援しました。これらの活動を通じて自衛隊、自衛官の実像をご理解いただければ幸いです。多くの質問をお待ちしています。

第二講演