ナノテクノロジーという言葉を耳にしたことのある方は多いと思います。カーボンナノチューブ•ナノワイヤー太陽電池•白金ナノコロイドなど、小さな材料を使って便利なものを作るというイメージはつくのではないでしょうか。では材料を小さくするとどんな嬉しいことがあるのでしょう?
材料はその大きさをナノメートル(0.000000001m)まで落とし込むと、手で掴める大きさのときには発現しない性質を持つことがあります。金の持つ魅惑の輝きは、血液のごとく赤くなります。黒鉛はもともと電気を通しますが、その伝導特性を調整することができるようになります。白ペンキの主材料である二酸化チタンは、光をあてるだけで汚れや水を分解できる魔法のような材料になってしまいます。こうした極小サイズのナノ材料こそナノテクノロジーを支える基板であり、未来を作る材料だと言っても過言ではありません。
材料科学という分野は、どのような合成方法で•どのような構造ができて•どのような性質を持つ材料になるのかを対象としてきました。構造を観察するにあたり、ナノメートルの世界はもちろん原子の並びや動きまでも直接観察できるのが電子顕微鏡という道具です。ナノテクノロジー以前から材料科学の主要な道具の一つでしたが、昨今その重要性は高まる一方です。
今回は電子顕微鏡という“目”を使って、ナノ材料の研究者がどのように未来を作っているのかをご紹介したいと思います。
教育にテクノロジーをかけ合わせたらどういうことになるのでしょう?最近では,電子黒板やデジタル教科書による協調学習,インターネットを介した異文化交流,オンラインで授業を視聴し教室で議論をする反転授業,モバイルツールを用いた探索的学習などがすぐに思い浮かぶかもしれません.また,ヘッドマウントディスプレイを使ったVR教材やAR教材,タンジブル・ユーザ・インタフェースを応用した教材,デジタルゲームを使った学習などの研究も進められています.しかし,どのようなテクノロジーを,いつ,どのように学習活動に取り入れればいいのでしょう.誰にでも効果があるのでしょうか.そもそも,なぜ,テクノロジー使うのでしょう.教育工学(Educational Technology)は,テクノロジーの教育への応用可能性を検討したり,教育現場の問題をテクノロジーで解決したりする研究領域です.本講演では,近年の教育改革とテクノロジーの関係を概観しつつ,教育工学の研究者らが関わっているいくつかの事例を紹介いたします.
医療における決断は、一昔前まではお医者さんに決めてもらうものでした。非医療者にとって、医療についての情報は欠如し、人々の価値観があまり多様ではない(と思われていた)時代には、それでよかったのかもしれません。そもそも医療技術も限られており決断における選択の余地はあまりありませんでした。しかし時代は大きく変わりました。医療技術は大きく進歩し、高齢で多くの病気を抱えたとえ意思疎通ができなくても、生命体としての命をつなぐことができるようになりました。書籍・インターネットなどで医療についての情報が氾濫し、人々の「生」についての価値観も多様化しています。病気の治療よりも予防・健康増進が大切という人も増えています。そのような変化の中で、医療の現場は現在、混乱に直面しています。医療者は良かれと思い必死に努力しても、患者さん(家族)からは、「こんなことになるとは想像していなかった」、「こんなことならもっと早く●●しておけばよかった」と言われることも少なくありません。このようなミスマッチはなぜ起きてしまうのでしょう?病気になる前からどのような準備が必要なのでしょう?そのようなことを皆さんで議論できる材料を提供できればと思います。
「プラスチック」と聞いて最初に思い付くものは何だろうか?おそらく、スーパーのレジ袋やカップ麺の容器のようなタダ同然の使い捨てる製品だと思います。しかし、プラスチックは使い捨て製品だけでなく、私たちの生活のありとあらゆる場面で活躍しています。衣類・スマートフォン・液晶テレビ・自動車・化粧品・食品など挙げればきりがありません。また、その用途は拡大の一途であり、宇宙・エネルギー・再生医療分野などの次世代技術の実現にも重要な役割を担っています。 近年、次世代技術のひとつとして、有機エレクトロニクスが注目されています。有機エレクトロニクスに不可欠な材料が、電気を流すプラスチック「導電性プラスチック」です。有機化学の力を駆使して、自由自在に新しい導電性プラスチックを合成し、さらにそれらをナノレベル(ナノはメートルの10億分の1!)で自由自在に並べることが出来れば、軽くて柔らかくて(曲げることができて)極薄なディスプレイ・生体センサー・太陽電池などを開発することができます。本講演では、将来の私たちの生活を大きく変えるかもしれない有機エレクトロニクスの現状や可能性について紹介させて頂きます。
グーグルでは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命としており、グーグルウェブ検索では現在 60 兆を超えるページが検索対象となっています。その膨大な数のページの中で、他人に知られたくない情報、「知られるべきでない」と考えられる情報があることも事実です。今年欧州連合司法裁判所で認められた忘れられる権利によって、ニュース記事も含む数多くのページが「忘れられて」います。また、著作権違反として毎日 100 万以上のページが検索結果から除外されています。政府関連機関や政治家による情報削除リクエストは年々数を増し、グーグルサービス自体がブロッキングによりアクセス不能になっている国もあります。
現代のネット社会の中で対立するプライバシーの権利やコンテンツの違法性と表現の自由。国境をまたぐネット上の情報は、誰が規制する立場にあり、そしてそこでのルールは誰が決めるべきなのでしょうか。本講演ではグーグルが直面している現状とグーグルの取り組みをご紹介させていただきます。
経済学と聞くと、「数式がたくさん出てきて取っ付きにくい」「本当に実社会で役に立つのかよくわからない」「あのバッテンのグラフだけ覚えているぞ」などといった、あまりポジティブではないイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。その理由の一つは、経済学がデータ分析と結びついたときに生まれる「なるほど!」というような面白さが、日本ではあまり伝えられていないからだと私は思っています。本講演では、私の研究分野である環境・エネルギー経済学の研究プロジェクトを題材としながら、データ分析と経済学を駆使して世の中の現象を読み解く「経済学の実証研究」という研究分野について紹介します。社会科学にとっての一番のチャレンジは、純粋科学のような「実験」を行うことができないことです。最新の経済学では、この難題に挑む試みが続けられています。ビッグデータに象徴されるように社会科学データが拡大して行く中、こういった経済学の取り組みは、マーケティング、ファイナンス、政策分析、政治分析、などにも応用されるようになってきています。データ分析や経済学にご関心のある方はもちろん、あまり前提知識のない方へも入りやすい形でお話できればと思っています。
デジタル化した今の時代にバレエと言う芸術をライブでみる必要性がなくなってきていますが、バレエがまだ生き残り、愛され続けられる理由はやはり”心”にあるのではないでしょうか?ダンサーと観客の心と心の会話が成立したとき,舞台は素晴らしい物となります。今までの私のダンサーとしての経験を今回皆様と一緒にお話し出来ることを楽しみにしています。
ひとの持つ考え方、倫理、価値観をゆさぶって刺激する「議論のためのデザイン」=「クリティカル•デザイン」と、スプツニ子!が今年MITメディアラボで創設するDESIGN FICTIONS GROUPについて話します。
官民連携で推進するクールジャパン戦略(食、ファッション、メディアコンテンツなどのクリエイティブ産業のグローバル展開)、および策定中の「クリエイティブシティTOKYO構想」についてお話しします。
近年日本でもNPO法人(non-profit organization)といった単語を頻繁に聞くようになりました。みなさんはNPOと聞いてどのような業務内容を思い浮かべますか?今回の発表の前半では米国のNPOの仕組み、特に、米国国税庁が認定する501(c)(3)NPOの主要業務でもある資金調達(ファンドレイジング)とアメリカの寄付文化についてお話します。後半ではNPOのファンドレイジング活動として、アジア女子大学支援財団(マサチューセッツ州ケンブリッジ市拠点のNPO)をケースとして取り上げます。当財団はバングラデシュにあるアジア女子大学の運営資金を調達しているNPOです。NPO運営の重要課題でもある長期継続性、欧米、アジア、中東の寄付文化の比較、寄付に影響する世界政治情勢や世界経済との関係など、様々な難題についてみなさんと意見交換ができましたら幸いです。
2000年前後から先進国の医学・医療が経験した最も大きな変化を挙げよと問われたら、何と答えるでしょうか。少子高齢化を背景とする医療費の抑制圧力など、いろいろな答えがあるでしょうが、演者は、医療をめぐる安全と質についての問題意識と、それに関する科学、改善の取り組みを挙げたいと思います。演者は、日米の医療組織で業務改善活動に従事してきました。今回はまず、医療保健サービスの安全と質をめぐる歴史、概念、社会的枠組みを提示します。その上で、「例えばある看護師が、勤務先の病院の業務を改善しようと思ったら、何を学び、どう行動したら良いのか? 」を、演者の経験を交えながら考えてみようと思います。最後に、医療保健サービスの安全と質を、その「透明性」を通して改善するという、比較的新しいが有望な試みを紹介します。医療関係の皆さんのみならず、多様な視点を持った方々からご質問・ご意見をいただいて、活発な議論ができれば幸甚です。
生命の遺伝情報を担うDNAという言葉を耳にしたことがあると思います。いわゆるDNAと言えば、おそらく生命やヒトゲノム、遺伝子診断等の言葉を連想するでしょう。DNAを扱う研究者の多くはバイオテクノロジーに携わっている方が大半ですので、間違いではありません。一方で、DNAを遺伝情報として利用するのではなく、その構造に着目した科学の分野が近年目覚ましく発展しています。この分野における、実にシンプルかつ目を疑うような数々の成果が科学界を賑わせているのです。
本講演では、今さら人には聞きにくいし、ググるのも面倒くさいという人のために、DNAの基本的な性質から最近のトピックまでを構造という視点から紹介します。DNAの構造に着目することでどのような世界が切り開かれるのか、遺伝子の根源であるDNAは私達にどのような科学を拓かせようとしているのか、みんなで空想の世界に浸れたら講演は大成功です。
既存の人工物・組織などのシステムデザインの多くは「中央集権型」であるのに対して、生物は「中央集権型」と「自律分散型」を上手く融合させて機能している。本公演では、自然界のシステムづくりには欠かせない設計思想であるにもかかわらず、今までなおざりにされてきた「自律分散型」のシステムづくりを、最も原初的な生き物である真正粘菌変形体をモデルケースとしてひもとく。真正粘菌変形体は巨大な多核単細胞生物であり、柔らかなボディの厚み振動を伴いながら環境のセンシング・判断・運動を渾然一体となって行うアメーバ生物である。単細胞生物であるため脳も神経も持たないこの生物は、餌と餌の最短経路を結ぶ、迷路を解くなど驚くほど知的で適応的な振る舞いを示す。発表者はこのような生物から「自律分散的なシステムづくりの設計論」を抽出し、実際にアメーバ様ソフトロボットを開発することでその妥当性を示してきた。この設計論はヘビロボット、四脚ロボットにも適用できることが我々の研究グループにより示されている。さらに、講演者が現在取り組んでいるイモムシ型ソフトロボットにもアメーバロボットと同様の制御則を組み込んだ事例も紹介したい。
WHOの健康の定義をご存知ですか?“Health is a state of complete physical,mental and social well-being and not merely the absence of diseaseor infirmity.”身体的・精神的な健やかさは分かりますが、社会のwell-beingとは何を意味するのでしょうか。私は、米国で臨床研修後、沖縄でプライマリ・ケア(内科診療)に従事し、離島医療支援を行う中で、少しずつ社会と医療の関わりを考えるようになりました。また後紛争国や低・中所得国における国際協力活動で、社会のwell-beingが健康を直接左右することを目にし、英国・米国留学では、先進国あるいは都会にも同じ課題があることを学びました。WHOは、社会の健康決定因子(Social Determinants of Health)が、国内・国間の不公平な健康格差の原因だと述べています。格差社会の広がりの中で、健康格差は日本でも切実になっています。本講演では、健康決定因子とそれに対する国内外の様々な取り組みをご紹介します。地域医療はillnessだけでなくwellnessを対象としており、「地域」の一人一人がその担い手であることをお伝えできたら幸いです。
尖閣諸島への領海侵入、領空侵犯、自衛隊艦船へのレーダー照射、防空識別圏の一方的な設定と、2012年以降の日中関係には多くの緊張を孕む事象が起きています。中国の軍事費は過去10年で3倍に増加し、衛星破壊兵器の保有、初の空母の就航、ステルス戦闘機や対艦弾道ミサイルの開発と急激に実力をつけてきています。中国の目的は何なのか、それに対する米国の「アジア回帰」政策とは?経済的な相互依存関係が進む米中関係、日中関係に直ちに紛争が起きる蓋然性は非常に低いといえる一方で、偶発的な衝突が起きる可能性は否定できません。万が一のその時に備えて、中国は、米国はどのような軍事戦略と作戦コンセプトを構築しているのか?現在の米中関係を軍事の面から概観し、その狭間で多くの懸念に直面する日本の防衛政策について、みなさんに紹介したいと思います。
みなさんは「病理」という言葉をご存知でしょうか。病理診断では、標本を病理医が顕微鏡で観察することにより良悪性の判定や病変の進行度、病態の決定などを行います。現在、医療分野において様々な画像がディジタル化されていますが、病理分野においてもそれは例外ではなく、多くの企業が病理標本のディジタル化に取り組んでいます。病理標本のディジタル化に伴い、標本管理などの容易化や、画像解析による定性・定量的な情報を用いた診断支援などが期待されています。しかしながら「ディジタル病理」に関する研究が活発になっている一方で、実用化に向けた問題も数多く残されています。
本講演では「病理とは何 か」ということに始まり、ディジタル病理分野の現状についてお話します。またディジタル化のメリットとなる画像処理技術に関して、基礎的なことから病理分野における応用研究について紹介したいと思います。医学や工学に限らず、様々な分野からのご参加を楽しみにしています。
昨年11月、フランシス・ベイコンの1969年の油彩画 “Three Studies of Lucian Freud”がクリスティーのオークションでUS$142.4millionで落札され、2012年5月ムンクの「叫び」のパステル画のサザビーのオークションでのUS$119.9millionの落札記録を更新した。専門家でなくても、現在の美術界のオークション価格の記録的な高騰と投機として美術品が買いまくられている状況は見逃せないだろう。特にアンディ・ウォーホールやゲルハート・リヒターのような“blue chip artists”による現代アートは世界の億万長者の究極の贅沢品として求められている。
こういう状況が大衆に不可解な理由は、アート市場は非常に不透明で、秘密主義的で、いわば最後の規制不可産業だからだろう。アート市場へのアクセスは容易でなく、資産よりも人的コネがものを言う。今回の講演では、アート業界のインサイダーとして、ニューヨーク、ロンドン、ベニス、マイアミのネットワークの中で、アーティスト、ギャラリー、キュレイター、批評家、コレクターが作るグローバルなサブカルチャーがどういうものかを少々紹介できたらと思う。