中川 敦寛 氏
東北大学病院 教授(産学連携室 EDAS)
日本は今後 40 年で大きな社会変化に直面し、「超高齢社会」に伴い、必要な医療資源の大幅な増加と、「少子化社会」による利用可能な社会・医療資源の大幅な減少という「大きなミスマッチ」を解決しなければならない。さらには、人生100年時代で、健康寿命を延伸するために、医療機関は、従来の「診断+治療」だけでなく、健康・予防から治療後に至るまで、ひとりひとりの健康全体(Health Continuum)にコミットすることが求められる。 東北大学病院は、2014年よりアカデミックサイエンスユニット(ASU)を、2020年にはオープンベッドラボを設立し、企業の研究開発者に対して医療現場を開放し、医療従事者とともに事業化に資する課題探索かプロトタイプのテストを6か月のプログラムとして提供してきた(10年間で 61 社、1,600 名を超える開発研究者を受け入れ)。2019年よりスマートホスピタルプロジェクトとして、産学連携室、デザインチームを設立し、企業とのコクリエーションにより、医療現場から広くは社会の課題を解決し、質の高い医療ヘルスケアを持続的に提供につながる事業創出に関わってきた。事業化に資する課題の探索からスケーリングまでの全体をデザイン(holistic Design)できる人材に関するニーズが明らかとなり、デザインヘッドの教育も行っている。 病院が、社会インフラとしての新たな機能、スペシャリスト、ノウハウを持ち合わせることで、臨床、研究だけでなく、新しい機器、ソリューションの開発から始まり、医療現場の課題解決、イノベーションを通じた社会課題やHuge Mismatchの解決に貢献する場となることを目指す東北大学病院の取り組みについて紹介する。質疑応答では、コクリエーションパートナー企業、当院のインターンも参加し、医療機関が果たせる可能性についてディスカッションする。
伊藤 聡 氏
Harvard University, Weatherhead Center for International Affairs, Program on US-Japan relations
現在ウクライナ-ロシア、イスラエル-パレスチナで凄惨な戦争が勃発している。日本人の世論調査では「台湾有事」懸念が高まり、ハーバード・ケネディスクールのグラハム・アリソン教授も「米中戦争」への警鐘を鳴らしている。国家はなぜ戦争するのか。国際政治のリアリズム理論は「Threat(脅威)」認識の高まりが、戦争や同盟の動機になると説明する。しかしどんな場合に国家が戦争、同盟、中立等を選ぶかについて、「Threat」認識だけでは十分に説明できない。本研究では「Threat」に加え、相手国に対する「Unsympathy(非共感)」感情が加わると、戦争を起こす可能性が高まることを指摘する。国家間のUnsympathyの度合いは、人種、宗教、歴史、文化、政治・経済体制、慣習や、それらから導き出される国家戦略等の要素がどの程度異なるかによって、ある程度測定できると考える。したがってUnsympathyを低減させる戦略的方法が考案可能であり、それを実行することで、戦争勃発の可能性を低減できると主張する。
辻 淳子 氏
Cancer Program, Broad Institute of MIT and Harvard
がんの原因となるような異常な細胞は、健康な人の体でも毎日数百から数千個も発生するといわれています。通常そのような細胞は、免疫の働きによって排除されますが、老化による免疫力の低下や免疫細胞の認識ミスなどによって生き残った異常細胞が増殖し、がん化します。近年のゲノミクス技術の進展により、変異してしまった標的遺伝子やタンパク質を、特定のがんの種類はおろか、個人のがんゲノムのレベルで検出できるようになりました。本講演では1人のがんゲノム情報から、どのようにして「がんと戦う武器」をデザインしていくのか、がんを標的とするワクチンや人工的にプログラムされた免疫細胞療法を例にお話しします。